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5年間の冒険を終えたアンドレス・イニエスタ選手に尋ねる、日本のフットボールが成長し続けるためのヒント /独占インタビュー



先日、7月1日のコンサドーレ札幌戦で日本での最終試合を終えた、元ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手。


ヨーロッパで欲しいだけのタイトルを獲得し、Jリーグに降り立った元FCバルセロナ/スペイン代表のレジェンドは日本のフットボールに何を見たのか。

次のステップへの準備を進める慌ただしい中のアンドレス・イニエスタ選手に『FNCLAB』は独占インタビューを実施。


5年間を振り返りながら日本で目にしたものやその経験についてお話を伺いました。


 



インタビュアー: 奈良坂(以下、奈良坂)

⽇本での5年間の活動と素晴らしいプレー、本当にありがとうございました。


ヴィッセル神⼾でのプレーを通して⾒ていただいたように、⽇本のフットボールも他国に負けまいと成⻑してきました。


しかしながら、その成⻑は⾛ることやフィジカルな部分にフォーカスが当たることも多く、勝っているチームがさらにさらにとリズムを上げてゲームのコントロールを失ってしまうことがあるなど、ヨーロッパでプレーしている選⼿たちやヨーロッパから帰ってきた選⼿たちが「もっと『フットボール』を学ばなければいけない」と⼝にすることもあります。


イニエスタ選⼿の⽬には⽇本のフットボールはどう映りましたか?




アンドレス・イニエスタ選⼿(以下、イニエスタ)

ここ数年で⽇本のフットボールは⼤きく成⻑したと感じています。

まず⾃分⾃⾝が何よりそれを⽣きた経験として実感しました。


確かに、よりフィジカルなプレーかもしれませんが、フットボール的な成⻑もあったと思います。


ボールを扱うことを重要視するクラブは増えたように感じますし、リーグ全体に⽬を向ければ、クラブ同⼠の激しい競争、プレーの強度、多くの感情、そして多くのクラブがタイトルを獲得出来る可能性持ち、素晴らしいレベルにあります。


何よりヴィッセル神⼾もその良い例でしょう。

タイトルを獲得した経験のなかったクラブから、優勝を経験しエリートクラブのポジションに今や並ぶことが出来ました。


これは先ほど述べた成⻑・発展を⽰す⼀つの形です。勿論、ヴィッセル神⼾だけではなく多くの他のクラブでも起きていることです。




奈良坂

では、今の⽇本のフットボールをさらに成⻑させるには何が必要になるのでしょうか。



イニエスタ

「これでヨシ」、「ここまでやればヨシ」と思うことなく、現状をより良くするために⽇々ハードワークすることです。


ハードワーク無しでは進化や成⻑はありませんし、これまでもそうして⽇本のフットボールは進んできた筈です。


それこそが⽇本が階段を登り続けるために進むべき道であり、今ある基礎と、ここ⽇本で⽇々トレーニングされていることの本質を⼤切にしながらも、新たなエッセンスを取り⼊れながらハードワークする。

そうあり続けることが成⻑を可能にしてくれます。




奈良坂

バルサやヴィッセル神⼾でもチームメイトであったボージャン選⼿が、スペイン帰国後にスペインメディアのインタビューの中で、ヨーロッパやスペインに⽐べて⼈々のコミュニケーションの距離が遠いことで⽇本に適応するのに苦労したという話をされていました。


私たちにとっては⽇本のそういったコミュニケーションはある意味慣れたものですが、逆にヨーロッパやスペインといった違う⽂化圏の国に日本から選⼿が⾏った際には全く逆のことが起き、多くの苦労を経験する原因にもなります。


イニエスタ選⼿にとって、フットボールの中でのコミュニケーションにおいて⼤事なことは何ですか?



イニエスタ

コミュニケーションは⼈⽣における全ての⾯で鍵になるものであり、フットボールの中だけではなく重要なものです。


各国の⽂化には敬意を払わなければいけません。


ヨーロッパ的なコミュニケーションを⽇本にクローンのようにもってくることも出来ませんし、逆に⽇本のものをヨーロッパにそのまま持っていくことも出来ませんよね。


とはいえ、そういった前提がありながらもチームメイト同⼠の良い化学反応はチームのプレーのレベルを引き上げてくれますし、全員に対して利益をもたらしてくれるものです。


なので、チームやグループの中では、それぞれが異なる性質や個性を持ち、そのキャラクターから何か新たなものを提供することで貢献する、という本質を尊重して繋がりを生むことが重要です。

それぞれの持つ性質や個性に優劣はありません。


そういったお互いの⽂化を理解し合い混ざり合うことで、グループとして進歩・成⻑出来ます。




奈良坂

⽇本でも技術的・⾝体的に素晴らしい選⼿は沢⼭出てくるようになりました。


しかしながら⽇本⼈選⼿にとって⾃⾝の持つものを100%発揮する、表現するというのは⾮常に⼤きな課題です。


その点においては、スペイン⼈の中でもイニエスタ選⼿は⽇本⼈選⼿に近い穏やかで奥ゆかしいや性格を持つように個⼈的には感じるのですが、イニエスタ選⼿⾃⾝は⾃分をどのような選⼿や⼈物だと定義しますか?


また、⾃分の持つものを100%発揮する上で⼤事なことはありますか?




日本の子供たちとのイベントでセルフィーを撮影するイニエスタ選手

イニエスタ

それはとても難しい質問ですね。

私たちの持つものを100%発揮するためには、全ては学びの途中だと考えることが⼤切です。


「もう全てを知った、わかった」と思い込んではいけません。

これは個⼈的な意⾒ですが、もしそう考えるのであれば、それは他の⼈から学び、吸収するための扉を閉めてしまう⼤きな過ちです。


他の⼈から学んだり吸収したりすることは、私たちにいつの瞬間も成⻑する機会を与えてくれますからね。


私⾃⾝がどんな⼈物かというと、普通の⼈ですよ。

フットボールという特殊な世界にいる、でも、普通の、全くもって普通の⼈です。




奈良坂

ピッチ内とピッチ外において、⽇本のフットボールで最も楽しんだことは何かと聞かれたら何を挙げますか?



イニエスタ

この経験全てが好きでした。


時々ふと考えて「5年!⾃分は5年も日本いるぞ!」と自分自身で驚くことがあったくらいです。


居⼼地を悪く感じる場所にこんなに⻑い時間いるなんてことはありませんからね。


もし愛情を感じなかったり、感謝されていなかったり、あなたの家族も最⾼だと感じられていなければ、こんなに⻑くの時間を過ごすことはなかったでしょう。


神⼾の街、ヴィッセル神⼾、5年前に私たちにドアを開けてくれた⽇本という国…。ここで得られた繋がりは本当に信じられないものでした。


素晴らしい冒険そのものですね。




奈良坂

私たちにとってもイニエスタ選⼿が⽇本でそのプレーを⾒せてくれたこと、⽇本に来ることを選んでくれたこと⾃体が素晴らしい経験でした。


本当にありがとうございました。


また次のステップでの活躍を楽しみしています。



イニエスタありがとう。またすぐに会いましょう!




Andrés Iniesta Luján(アンドレス・イニエスタ・ルハン)

1984年5月11日 / スペイン / Fuentealbilla 生まれ


幼少期に地元の強豪クラブ ALBACETE BALONPIÉ で頭角を表すと、様々なクラブからオファーを受ける中でFC BARCELONAの下部組織に移籍。2002年に同クラブでトップチームでデビューを果たすと、2008年から2010年でサッカー史上初となる六冠を達成するなどクラブの黄金期を支え、スペイン代表チームでも2010年にFIFAワールドカップにて決勝戦でゴールを決めて優勝に貢献するなどクラブ・代表レベルで取れるだけのタイトルを欲しいままにした。ワールドカップ優勝後はスペイン各地のスタジアムでスタンディングオベーションで迎えられるなど、プレーだけでなくその人格面でも評価されている。2018年にヴィッセル神戸に移籍すると、2019年の元旦に行われた天皇杯決勝にもキャプテンとして出場しクラブ史上初のタイトル獲得に貢献した。



インタビュー・翻訳=奈良坂 周(FNCLAB代表)

写真=本人提供

 

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